コラム

家庭だからこそできる発達支援がある~生活をアセスメントすることから始まる児童精神科訪問看護~

家庭だからこそできる発達支援がある~生活をアセスメントすることから始まる児童精神科訪問看護~

「発達支援」と聞くと、特別な教材や訓練の場面を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし子どもの困りごとは、生活の中で起きています。児童精神科訪問看護の現場から、家庭をアセスメントし、環境を少し整えることで進める発達支援の実践をお伝えします。

生活そのものが発達支援の場になる

「発達支援」と聞くと、机に向かって課題に取り組む姿や、専門的な教材を使ってトレーニングを行う場面を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

もちろん、そのような支援も子どもの発達を促す大切な方法の1つです。しかし、私たちショートケーキ訪問看護ステーションでは、「生活そのものが発達支援の場である」と考えています。

ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校などにより、生きづらさを抱える子どもとその家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。

私たちは、子どもの生活の場である家庭を訪問し、医療だけでなく教育や福祉とも連携しながら支援を行っています。その中で強く感じるのは、子どもの困りごとは生活の中で起きており、その背景も生活の中にあるということです。 そのため、家庭でしか見えない情報を丁寧にアセスメントすることが、発達支援の第一歩だと考えています。

生活そのものが発達支援の場になる

「切り替えができない」の正体を探る

保護者から「うちの子は切り替えができません」という相談を受けることがあります。

この言葉だけを聞くと、「切り替える練習をしましょう」と考えてしまいがちです。しかし、私たちはすぐに支援方法を考えるのではなく、まず「どんな場面で困っているのか」を一緒に整理することから始めます。

例えば、朝、学校へ行く準備が始められない、ゲームを終えられない、お風呂に入れない、お風呂から出られない、宿題を始められないなど、1日の生活を振り返りながら具体的な場面を確認していきます。

すると、「切り替えが苦手」という1つの困りごとの中にも、さまざまな状況があることが見えてきます。

さらに、「なぜその場面で切り替えられないのだろう」と考えていきます。

  • 時間が分かりにくいのかもしれない。
  • 次に何をするのか見通しが立っていないのかもしれない。
  • 急に活動を終えることが苦手なのかもしれない。
  • 時計が読みにくい環境なのかもしれない。
  • 時間そのものの概念がまだ十分に育っていないのかもしれない。

このように生活を細かくアセスメントしていくことで、「切り替えができない」という困りごとは、子どもの努力不足ではなく、生活環境や発達特性が影響している可能性が見えてきます。

家庭だからこそできる環境調整

児童精神科訪問看護の強みは、生活の場を実際に見ることができる点にあります。

例えば、時間を意識して行動することが難しい子どもの場合、家庭環境を確認すると、子どもにとって時間を把握しにくい時計が設置されていたり、時計そのものが目に入りにくい場所にあったりすることがあります。

そのような場合には、子どもが時間を確認しやすい環境を整えることを保護者に提案します。デジタル時計を設置したり、タイマーを活用したりすることで、「あと何分」「今は何時」という時間の感覚を身につけやすくなります。

訪問時にはホワイトボードを使い、その日の予定や活動時間を書き出しています。

「今日は何をするのか」「あと何分で次の活動に移るのか」を一緒に確認しながら、「今は何時かな」と時計を見る習慣が身につくよう、繰り返し働きかけていきます 。

また、ホームプログラムとして毎日「起きた時間」と「寝た時間」を記録してもらうこともあります。

これは睡眠状況を把握するだけではなく、自分で時計を見て時間を意識する習慣を身につけることも目的の1つです。

このような支援は、特別な教材を使うわけではありません。 子どもの生活を丁寧に観察し、少しだけ環境を整えることで、「できた」という経験を生活の中で積み重ねていくことを大切にしています。

発達支援は生活の中にある

同じように、「忘れ物が多い」という相談に対しても、「もっと気を付けよう」と伝えるだけでは根本的な解決にはなりません。

  • 持ち物を1か所にまとめる場所を作る。
  • 持ち物リストを見える場所へ貼る。
  • 翌日の準備を行う時間を決める。

このように環境を調整することで、子ども自身が準備しやすいしくみを作ることができます。

また、「体育が苦手」という子どもに対しても、単に「運動が嫌いなのだ」と捉えるのではなく、その背景に不器用さや模倣の難しさがある可能性も考えます。

そのような場合には、自宅で取り組める簡単な運動を一緒に行い、安心できる環境で成功体験を積み重ねることで、自信につなげていきます。

発達支援とは、子どもを変えることではありません。 子どもが力を発揮しやすい環境を整え、生活の中で成功体験を積み重ねていくことだと私たちは考えています。

家族も発達支援のパートナー

家庭で発達支援を行うことのもう1つの大きな特徴は、保護者も支援に参加できることです。

訪問の最後には、保護者とその日の様子を振り返り、家庭で困っていることや変化について話し合います。

「この声かけでうまくいきました」
「タイマーを使ったら準備がスムーズでした」
「ここは少し難しかったですね」

そんな小さな成功や課題を共有しながら、家庭でも無理なく続けられる方法を一緒に考えていきます。

子どもが訪問時の週に1時間だけ頑張るのではなく、生活の大半を過ごす家庭の環境が少しずつ変わることで、子どもの生活も変わっていきます。

だからこそ、保護者は支援を受ける存在であると同時に、子どもの成長を支える大切なパートナーでもあります。

おわりに

私たちが家庭で行っている発達支援は、特別なプログラムではありません。

生活を丁寧にアセスメントし、「なぜ困っているのだろう」と考えながら、その子どもに合った環境を一緒に整えていくことです。

家庭だからこそ見える困りごとがあり、家庭だからこそ実践できる支援があります。

発達支援とは、生活から切り離された特別な時間ではなく、毎日の暮らしの中で育まれていくものです。

これからも私たちは、子ども一人ひとりの生活に寄り添いながら、「その子らしく育つこと」を支える児童精神科訪問看護を実践していきたいと考えています。

※本稿は日々の実践をもとに執筆していますが、事例は複数のケースをもとに再構成し、個人が特定されないよう十分に配慮しています。

執筆:齋藤 透
ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー
日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了

齋藤 透

児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。
「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。
ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。



編集:NsPace 編集部

【参考文献】
〇こども家庭庁 「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7692b729-5944-45ee-bbd8-f0283126b7db/863f5ecf/20241101_policies_shougaijishien_shisaku_guideline_tebiki_02.pdf
2026/8/26閲覧

「発達支援」と聞くと、特別な教材や訓練の場面を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし子どもの困りごとは、生活の中で起きています。児童精神科訪問看護の現場から、家庭をアセスメントし、環境を少し整えることで進める発達支援の実践をお伝えします。

生活そのものが発達支援の場になる

「発達支援」と聞くと、机に向かって課題に取り組む姿や、専門的な教材を使ってトレーニングを行う場面を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

もちろん、そのような支援も子どもの発達を促す大切な方法の1つです。しかし、私たちショートケーキ訪問看護ステーションでは、「生活そのものが発達支援の場である」と考えています。

ショートケーキ訪問看護ステーションは、東京都豊島区、板橋区、北区を中心に、発達障害や不登校などにより、生きづらさを抱える子どもとその家族を対象とした児童精神科訪問看護を提供しています。

私たちは、子どもの生活の場である家庭を訪問し、医療だけでなく教育や福祉とも連携しながら支援を行っています。その中で強く感じるのは、子どもの困りごとは生活の中で起きており、その背景も生活の中にあるということです。 そのため、家庭でしか見えない情報を丁寧にアセスメントすることが、発達支援の第一歩だと考えています。

生活そのものが発達支援の場になる

「切り替えができない」の正体を探る

保護者から「うちの子は切り替えができません」という相談を受けることがあります。

この言葉だけを聞くと、「切り替える練習をしましょう」と考えてしまいがちです。しかし、私たちはすぐに支援方法を考えるのではなく、まず「どんな場面で困っているのか」を一緒に整理することから始めます。

例えば、朝、学校へ行く準備が始められない、ゲームを終えられない、お風呂に入れない、お風呂から出られない、宿題を始められないなど、1日の生活を振り返りながら具体的な場面を確認していきます。

すると、「切り替えが苦手」という1つの困りごとの中にも、さまざまな状況があることが見えてきます。

さらに、「なぜその場面で切り替えられないのだろう」と考えていきます。

  • 時間が分かりにくいのかもしれない。
  • 次に何をするのか見通しが立っていないのかもしれない。
  • 急に活動を終えることが苦手なのかもしれない。
  • 時計が読みにくい環境なのかもしれない。
  • 時間そのものの概念がまだ十分に育っていないのかもしれない。

このように生活を細かくアセスメントしていくことで、「切り替えができない」という困りごとは、子どもの努力不足ではなく、生活環境や発達特性が影響している可能性が見えてきます。

家庭だからこそできる環境調整

児童精神科訪問看護の強みは、生活の場を実際に見ることができる点にあります。

例えば、時間を意識して行動することが難しい子どもの場合、家庭環境を確認すると、子どもにとって時間を把握しにくい時計が設置されていたり、時計そのものが目に入りにくい場所にあったりすることがあります。

そのような場合には、子どもが時間を確認しやすい環境を整えることを保護者に提案します。デジタル時計を設置したり、タイマーを活用したりすることで、「あと何分」「今は何時」という時間の感覚を身につけやすくなります。

訪問時にはホワイトボードを使い、その日の予定や活動時間を書き出しています。

「今日は何をするのか」「あと何分で次の活動に移るのか」を一緒に確認しながら、「今は何時かな」と時計を見る習慣が身につくよう、繰り返し働きかけていきます 。

また、ホームプログラムとして毎日「起きた時間」と「寝た時間」を記録してもらうこともあります。

これは睡眠状況を把握するだけではなく、自分で時計を見て時間を意識する習慣を身につけることも目的の1つです。

このような支援は、特別な教材を使うわけではありません。 子どもの生活を丁寧に観察し、少しだけ環境を整えることで、「できた」という経験を生活の中で積み重ねていくことを大切にしています。

発達支援は生活の中にある

同じように、「忘れ物が多い」という相談に対しても、「もっと気を付けよう」と伝えるだけでは根本的な解決にはなりません。

  • 持ち物を1か所にまとめる場所を作る。
  • 持ち物リストを見える場所へ貼る。
  • 翌日の準備を行う時間を決める。

このように環境を調整することで、子ども自身が準備しやすいしくみを作ることができます。

また、「体育が苦手」という子どもに対しても、単に「運動が嫌いなのだ」と捉えるのではなく、その背景に不器用さや模倣の難しさがある可能性も考えます。

そのような場合には、自宅で取り組める簡単な運動を一緒に行い、安心できる環境で成功体験を積み重ねることで、自信につなげていきます。

発達支援とは、子どもを変えることではありません。 子どもが力を発揮しやすい環境を整え、生活の中で成功体験を積み重ねていくことだと私たちは考えています。

家族も発達支援のパートナー

家庭で発達支援を行うことのもう1つの大きな特徴は、保護者も支援に参加できることです。

訪問の最後には、保護者とその日の様子を振り返り、家庭で困っていることや変化について話し合います。

「この声かけでうまくいきました」
「タイマーを使ったら準備がスムーズでした」
「ここは少し難しかったですね」

そんな小さな成功や課題を共有しながら、家庭でも無理なく続けられる方法を一緒に考えていきます。

子どもが訪問時の週に1時間だけ頑張るのではなく、生活の大半を過ごす家庭の環境が少しずつ変わることで、子どもの生活も変わっていきます。

だからこそ、保護者は支援を受ける存在であると同時に、子どもの成長を支える大切なパートナーでもあります。

おわりに

私たちが家庭で行っている発達支援は、特別なプログラムではありません。

生活を丁寧にアセスメントし、「なぜ困っているのだろう」と考えながら、その子どもに合った環境を一緒に整えていくことです。

家庭だからこそ見える困りごとがあり、家庭だからこそ実践できる支援があります。

発達支援とは、生活から切り離された特別な時間ではなく、毎日の暮らしの中で育まれていくものです。

これからも私たちは、子ども一人ひとりの生活に寄り添いながら、「その子らしく育つこと」を支える児童精神科訪問看護を実践していきたいと考えています。

※本稿は日々の実践をもとに執筆していますが、事例は複数のケースをもとに再構成し、個人が特定されないよう十分に配慮しています。

執筆:齋藤 透
ケアプロ株式会社ショートケーキ訪問看護ステーション リーダー
日本赤十字看護大学大学院 地域看護学領域 専門看護師コース修了

齋藤 透

児童精神・発達支援・不登校支援を中心に活動。
「学校に行かせること」だけをゴールにせず、家庭という生活の場から、親子関係や安心感、人とのつながりを支えることを大切にしている。
ゲームや好きな話題を通した関係形成、親子間の感情整理、学校連携などを得意としている。



編集:NsPace 編集部

【参考文献】
〇こども家庭庁 「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7692b729-5944-45ee-bbd8-f0283126b7db/863f5ecf/20241101_policies_shougaijishien_shisaku_guideline_tebiki_02.pdf
2026/10/1閲覧

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